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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 

圭司が風呂から上がると、早苗が渡瀬を助手にしてキッチンでカレーを盛りつけていた。
その様子をリビングから麻衣が嬉しそうに眺めている。

圭司は麻衣の耳元で「味見した?」と聞いた。
首をふる麻衣に、圭司が白眼を見せて舌を出すと、麻衣はそれをとがめるように圭司の尻を小づいた。

パジャマ姿で手を合わせ、いよいよ早苗が作ったカレーに三人が挑むことになった。
皿の上には真っ白なライスとともに、ダイナミックにカットされた具材がカレーソースをかぶって湯気をたてている。

ひとくち食べた圭司が、やおらスプーンを置いて苦しそうにギュッと目を閉じ、パンッとテーブルに両手をついた。
それに驚いた麻衣のスプーンが皿に当たってカチンと鳴った。
早苗が身を乗り出して期待に満ちた笑顔を圭司に向ける。
圭司は、『うぅ……』と喉をかいて天をあおぎ、『うまい!』と吠え、真顔で早苗に拍手した。
それにつられて、渡瀬と麻衣も拍手した。

『いやすごい。
 早苗にこんなことができるなんて。
 俺は感動したよ』

早苗は満面に笑みを浮かべ、ガッツポーズをすると渡瀬とハイタッチした。

多少おおげさではあるが、子供じみた称賛が早苗を喜ばせるということを圭司は知っている。
突然の寸劇は、圭司から二人への祝福のようなものだった。
市販のルーを溶いた何の変哲もないカレーであったが、慣れない刃物をあつかい、どうにか食材をさばいて、早苗が「普通のカレー」を作れたことは称賛に価(あたい)する。
それを圭司は、心からほめてやりたかった。
このカレーは渡瀬への想いの結晶であり、気持ちを明確にできない早苗の詫び状でもあるのだから。

『これ見てよ』

圭司の前に差し出された早苗の左手は、ほとんどの指にいくつも絆創膏(ばんそうこう)がまかれている。

『勲章だな。消毒したか?』

『うん。ヒリヒリする。
 中学の家庭科以来よ、包丁にぎったの』

『横で見ててヒヤヒヤしたよ』

渡瀬が本当に心配そうな顔つきで言うと、

『浩ちゃんが巻いてくれたのよね。
 あたしが包丁持つと、
 浩ちゃん、絆創膏持って待ってるのよ』

と早苗が笑った。
悪戦苦闘する早苗の横で絆創膏を持っておろおろする渡瀬を思い浮かべ、たまらず麻衣も口もとを押さえてクスッと笑った。


 
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