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星と僕たちのあいだに
第4章 幸福の在りか
 

『ねぇ麻衣ちゃん。
 包丁の使いかた教えて。
 このままじゃ指が無くなっちゃうわ』

『はい、いくらでも。
 最初は、おリンゴむいて
 練習するのがいいですよ』

切れない包丁は力が入りすぎて危ないので包丁を研いでおきます、と言う麻衣に、包丁を使い捨てだと思っていた早苗は、それを告白して三人を悶絶させた。
腹筋のひきつれから立ち直った圭司が息をととのえながら言った。

『でもホントえらいよ。
 思い立ったら行動だもんな。
 そういうのを、やる気って言うんだよ。
 本当にやる気のある奴は、
 教えを乞う前に体が動くもんだ』

『ほら、爪も切ったのよ。
 指を切るよりつらかったわ』

もっとホメてといわんばかりに、早苗は切りそろえた爪を見せた。
マニキュアはきれいに落としてある。

『それがホントの女の手だよ。
 イイ女になったな』

圭司が早苗の指をしげしげと眺めると、早苗は照れくさそうに『アタシも頑張る』とつぶやいて、ほんの一瞬、上目に圭司を見た。
圭司はそれに気づいたが、なにか不謹慎なものを早苗の内部に感じ、見なかったことにした。

そういった性を匂わせる特質が、早苗を不幸に導く要素になっていそうに思うからだが、早苗が無意識に放つ性の匂いに、どうしようもなく惹かれてしまう自分を、圭司は否(いな)めずにいた。

『ところで、なんだが……』

と渡瀬があらたまった。

『麻衣ちゃんと圭ちゃんのこと聞いたよ』

圭司と目をあわせた麻衣の耳が赤くなった。


 
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