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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
古宿の夜以来、圭司と麻衣の関係は急速に深まっていた。
それでも、あからさまに肩を組んで小屋に消えていくというようなことはなく、二人はどちらかの小屋へ夜這いをかけるようにしてベッドを共にした。

そういった恋愛の実情をあけすけにせず、四人の暗黙の了解としたのは、それぞれの独立した環境を崩さない、いわば共同生活の掟のようなものが共通理解されていたからである。

早苗と渡瀬の仲は一進一退といったところで、キッチンでふたり仲良く料理していることもあれば、それぞれが小屋にこもって出てこないこともあった。

一度、早苗が戻らない夜があり、心配した麻衣が電話をかけたが、留守番応答はひと晩解除されなかった。
ときに意固地になることもある麻衣は、なんど電話しても消息のつかめない早苗を本気で心配して涙ぐみ、怒りさえもあらわにした。

麻衣は心配ごとが極端に苦手だった。
ちょっとした心配ごとでも不必要にあたふたしたあげく、自己嫌悪におちいってしまうことがあり、圭司はその様子を見て、麻衣の心の中に仲間を案ずるやさしさとは別の、なにか深い病根があるのではないかと、早苗よりもむしろ麻衣を心配するようになっていた。

翌朝、泥酔状態で帰ってきた早苗は、どこかでパンプスの片方を失くしたと言って子供のようにわんわん泣いた。

腰を据えればどこまでも飲(や)れるという、向かうところ敵なしの大酒飲みである早苗が、これほどまでに酩酊(めいてい)した姿を見るのは、圭司も渡瀬も初めてだった。

深酒と涙の理由がお気にいりの靴を失ったこと以外にあるのは明白で、女としてだらしないと、めずらしく麻衣は年上の早苗を叱ったが、圭司は『酒の力を借りたい時もあるんだよ』と落ちこむ早苗をかばい、麻衣をなだめた。

その日は渡瀬が仕事を休み、しじみ汁をつくって早苗を介抱したが、何かの影を引きずる早苗と、絶対にそれを問いつめない渡瀬の、二人のあいだの温度差は、その年を越してもまだ埋まらなかった。



 
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