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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
一月のなかば過ぎ―――――
ダウンジャケットを着こんだ圭司は、倉庫の一角に急ごしらえした撮影ブースで白い息を吐いた。
余念なく照明の角度を調節して影を消すと、ものものしく稲妻をかたどった男の子用玩具が、撮影台の上で宝石のように輝いた。
火の気のない倉庫の空気はしんと冷えていて、壁の寒暖計は六度を差している。
寒さをこらえて仕事をするのは、ガスストーブや石油ストーブを焚けば、商品や機材がたちまち結露してしまうからである。
ゆうべ遅く三十点を超える新作商品が大手玩具メーカーから届き、ブースまわりはまさしくおもちゃ箱をひっくり返した状態になっている。
圭司がこの玩具メーカーの広告展開にたずさわるのは二度目で、今回は宣伝部課長のS氏から直々に指名された。
名の通った写真家ならともかく、圭司のような無名カメラマンを大手企業が指名することは滅多にない。
企業が商品を宣伝する場合、出版社やテレビ局のスポンサー枠を買いつける広告代理店が緻密なマーケティングを行い、それをもとに広告展開を練りあげて企業へ提案するケースが多い。
提案が通ったものには予算がつけられ、CM制作会社へと発注されるが、制作会社内で用意のつかない分野は圭司や渡瀬のような専門職へとオーダーされる。
それぞれのオーダーに従ってできあがった制作物は、制作会社のディレクターによってまとめられ、最終的に雑誌広告やテレビCMになるのである。
圭司はいつも、制作会社からのオーダー以外に何点か「遊び」のカットを忍ばせて納品するのだが、そのカットがS氏の目に留まり、玩具メーカーのトップページに採用されたことがあった。
ネットショッピングが一般化した現代においては、画面にうつしだされた商品画像の訴求力が「カートに入れる」決め手となる。
それは小さな子供のおもちゃであっても同様で、実際、圭司の写真を採用した玩具はネットでの販売数を大きく押し上げた。
その実績が今回の指名発注に至った理由だった。
圭司は、商業写真家としてのセンスを見込まれたということになる。
このキャリアは圭司にとって決して小さなものではない。