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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
鉄扉の向こうで、麻衣の原付バイクの音がした。
『うぇ、もうそんな時間?
ちょっと休憩するか』
撮影用ライトのスイッチを切って、ブースのカーテンをめくりあげた圭司の眼に、高窓から射しこむ冬の陽がまぶしくひらめいた。
ゆうべ麻衣が出勤したあとすぐ仕事にかかり、一度も休憩せずに夜明けを迎えていた。
『ただいまぁ』
深夜勤あけの麻衣がヘルメットを脱いで機嫌のよい笑顔を見せた。
ほの暗い倉庫にあって冷たい外気にさらされてきた麻衣の顔は、色が抜けたように真っ白である。
『お疲れさん。
寒かったろ。
コーヒー飲むか?』
『うん、お願い』
圭司はリビングのストーブに火を入れ、あくびをひとつしてコンロにケトルをかけた。
『あれからずっと?』
『ああ、気づけば今だよ。
サンプルにラジコンヘリがあってさ、
ちょっと遊んじゃったけど』
コンロの火に手をかざして暖をとる圭司に、コートを脱いだ麻衣が身をすり寄せる。
『ほら、ほっぺ』
麻衣は、圭司の手をとって氷のように冷たい自分の頬にあてがい、『気持ちいい』と目を閉じた。
『よく冷えてるなぁ』
キスをくれ、と麻衣が唇をすぼめると、圭司は両手で麻衣の頬をつつみなおし、チュッと音をたててキスをした。
三交代制の深夜勤務あけの朝は早苗と渡瀬が出勤したあと、入れかわるようにして麻衣が帰宅する。
キスの音に気をつかう必要はない。
ふたりは唇を捺(お)しあい、長いあいだキスを楽しんだ。
くちびるが温まってきて、ゆるく口をひらいた麻衣が舌先で圭司のくちびるをつつくと、それを合図に二人は競うように舌を巻きつけあった。
麻衣は強く求めすぎない圭司のキスが好きだ。
圭司に舌と唇を占有されているあいだ、自分の体重が少し軽くなるように感じられ、キスをするたび、あの時のように無尽蔵の星々の中に浮遊していくような気分になる。
そのやさしい口あたりは、麻衣のなかの心配ごとや毒気のあるものを無力にするようで、圭司とのキスを麻衣は「消毒」と呼んでいる。