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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺

『うん、行けるよ』
《じゃ来て。
またすぐかけ直す》
ブッ、と電話が切れた。
早苗が口走った「スタジオ」のひと言で、呼び出された理由の半分ぐらいは察しがつく。
何を撮るのか、どこにいけばいいのかも判らなかったが、電話口のただならぬ気配につき動かされ、圭司は、撮影機材を手早くケースにおさめて出かける準備をはじめた。
巧みにフライパンを振りながら、心配そうな顔で麻衣が訊いた。
『でかけるの?』
『うん、早苗が困ってるみたい。
チャーハンはいただくよ』
不安げな表情を打ち消して、麻衣はあきらめたふうに口元だけの笑顔を作った。
昼食のあとも、夕方まで圭司とたわむれるつもりだった麻衣の気持ちは、少ししおれた。
チャーハンをかきこんで早苗からのメールに目を通すと、圭司が行くべき場所が示されていた。
CM制作などで使用される有名な撮影スタジオである。
『へぇ、一流どころだ』
『こういうこと、よくあるの?』
『いや、初めてだな』
ふぅん、そうなんだ、と、麻衣はソファでヒザを抱えた。
我知らず、口がとがる。
チラッとそれを見た圭司がフフッと笑うと、麻衣はそっぽを向いた。
さっきまではしゃいでいた自分がバカみたいで、少しずつ機嫌が傾くのを麻衣は自分でどうすることもできずにいた。
間の悪さにむかっ腹さえ立ってきて、早苗をねたむ気持ちが積もってくる。
ふいに、柔らかくてあたたかいものが麻衣の頬に触れ、チュッと音がして、圭司の腕が体に巻きついてきた。
『どんなにすねても、
かわいいんだよなぁ』
頬へのキスですこし機嫌を直したものの、麻衣はわざと仏頂面(ぶっちょうづら)をつくってプイと横を向いた。
――――(なによ、人の気も知らないでっ!)
ひねったうなじに、心のつぶやきを見せつける。
もうひとつキスをもらえば微笑む心づもりをして、『ふんっ』とやった麻衣であるが、逆らいようのない、物優しい手際でとアゴを持ちあげられ、あっさりと唇をふさがれた。
圭司の唇は、ほんのりとゴマ油の味がした。

