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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺

スタジオに向かう車中で電話が鳴った。
早苗からだった。
《ごめん。出てくれた?》
『今、向かってるよ。
なに撮るんだ?』
《女よ、女。モデル》
それがね、と早苗は早口で事情をあかした。
フランス本国で高い評価をうける新進オートクチュールデザイナーが、日本でブランド展開することになった。
早苗のつとめる商社が資本提携し、そのブランドの代理権を得ることに成功したというのは圭司も以前に早苗から聞いていた。
すでに東京と大阪の出店も決まり、ファッション業界ではちょっとした話題になっていて注目度も高い。
大手広告代理店とタッグを組み、有名芸能人を使ったステルスマーケティングも進行中でイベントの予定もある。
今後、東アジア圏でのブランド展開が計画されており、日本市場はその足がかりといっていい。
今もってアジアの最先端である¨トーキョー¨で知名度をあげ、より高位のブランドイメージを構築することが何よりも重要で、早苗が所属するアパレル部門への至上命令となっている。
二年越しで進めてきたプロジェクトのリーダーである早苗に出された社命は、「失敗するな」であった。
『ほえぇ、あいかわらず
でかいことやってんだな』
《そう。でね、
今日、国内向けの撮りがあるんだけど、
予定してたカメラマンが
ゆうべ事故って身動きできないって。
手分けして代役さがしてるんだけど、
都合よく見つからなくて》
『あぁそういうこと』
《けさ、デザイナーが来日したの。
予定が狂うって、も、カンカンで》
早苗はだいぶ参った様子だ。
《午前中も圭ちゃんに
何度か電話したのよ》
なぜか早苗は圭司にも厳しい口調であたる。
麻衣とのセックスに夢中でまったく気づかなかった、とは冗談でも言えそうにない雰囲気である。
現場は相当緊張しているのだろう、と圭司は察した。

