この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺

『そうか、悪かった』
《そうよ、悪いわ。
電話の意味ないじゃない》
あんたたちが何をしてたのかバレバレなのよ、とでも言いたげで、早苗の怒気は弱まる気配をみせない。
仕事での不手際でイラ立つ気持ちに、それとは別の不満を上乗せして吐き出すようだった。
早苗にしては珍しいことだな、と圭司は首をひねった。
『まぁ落ちつけよ。
そのデザイナーは
俺の華々しい経歴を知ってるの?』
《圭ちゃんのホームページ見せたのよ。
そしたら一度連れてこいって》
自虐的な圭司の冗談に、早苗はまじめに答えた。
圭司は、連れてこいという言いかたにカチンときたものの、早苗の立場を慮(おもんぱか)って怒りをおさめた。
『ああそう。
そんならいいよ。
とにかくそっちに向かってるから、
もうちょっと待ってろ。な』
電話をきったあと、
『欧米人とか大企業ってのは、
ほんとに何様なんだよ』
と、ひとりごちて思いきりアクセルを踏んだ。
スタジオの入り口で待っていた早苗にうながされ、分厚いドアを押しあけると、広いスタジオ内はヘアメイクやスタイリストといった、その筋の人種であふれていた。
本国の関係者とおもしき金髪や黒人もいる。
カメラマンを確保できたという一報で、撮影に向けてにわかに人が動きはじめたといった様子だった。
早苗は統括責任者として多くのスタッフをまとめ、相当なプレッシャーのなかで立ち回っていたようだ。顔つきが厳しい。
圭司は、気負いたつ早苗の背をポンとたたいた。
振りむいた早苗に微笑んでやる。
「心配するな」、というサインである。

