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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
ソファのど真ん中に埋もれていた白人が立ちあがり、圭司に手招きした。
目のさめるような真っ白のスーツを着た四十手前ぐらいの背の高い男で、歩みよる圭司へ矢つぎ早にまくしたててきた。

圭司は首をかしげ、微妙な笑みを頬に貼りつけた。
それを見た白人男は難しい顔をして、口の中に水がたまったようなフランス語でなにか言うと、両の手のひらを上にむけて下くちびるを出し、残念そうに肩を上げた。

『なんだ?
 こいつなんて言ってんの?』

早苗は言いにくそうにうつむいた。

『なんて、みすぼらしい恰好なんだ。
 美的感覚はないのか、って……』

それを聞いて圭司は、こみ上げるものが抑えきれないといった様子で、周囲の者がふりかえるほどの大笑いすると、

『お前のスーツもたいがいだよ』

と言い、背の高い白人に満面の笑顔で手をさしのべた。
一瞬、スタジオ内は凍りついた。
早苗は驚きの表情で圭司を見たあと、ためらいがちに通訳した。

白人男はニヤッと笑みを浮かべ、圭司とかたく握手した。
彼は、ジョークのわかる物おじしない東洋人を気に入ったようだった。


撮影準備をする圭司の横で本国のファッション雑誌を開いた早苗は、ヨーロッパでのブランドの人気を説明した。
¨フレデリック・ミシェル¨というブランド名は、白人男の長い本名の一部であった。
開いたページには白いドレスと青いドレスを着た女が、たそがれどきの浜辺でこちらを睨(にら)む写真が見開きを抜いていて、それがフレデリックのお気に入りだという。

『スタジオじゃ、これは無理だよ』

圭司はノートパソコンを早苗に渡し、フレデリックのブランドサイトを開くように言った。
開いた画面には、同じく外部の自然光のもとで撮影されたイメージ画像が並ぶ。
そこにうつる白人女性は一様に彫りが深い。
圭司が見たところ、フレデリックミシェルの婦人服にはビビッドな色あいのものが多く、標準的な日本美人では色彩に負ける、とふんだ。


 
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