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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 
数人いた日本人モデルの中から、鼻梁(びりょう)が高く、濃いアイラインをひいた個性的な顔立ちのモデルを選んでロールバックの前を歩かせた。
そこからは照明の位置を変えたり、数を増やしたりして光量を調節し、蹴りだすような歩きかたをさせ、振り向きざまにジャケットを羽織らせた。
やせたモデルの腰に落ち感のきいたジャケットの裾が巻きついていく様子は、ドレープ性を意識したフレデリックのデザインに、より優雅な印象を与える。

その瞬間、圭司はシャッターを切った。

すぐさまカメラと機器をつなぎ、スタジオ内のハイビジョンモニターへ画像転送した。
皆がモニターを見つめる。

フレデリックは猟犬のような険しい目つきで画面を睨みつけた。
やがて腕組みしてうなずき、「ムゥ」とか「グラァス」と言って、口元にすぼめた指先をあててチュッと鳴らした。
フレデリックを取り巻く連中の緊張がとけていき、他のスタッフのあいだには、ため息ともつかぬ安堵の空気がただよった。

「どうだ?」という圭司の目線に早苗がこたえた。

『柔らかくてエレガントだって。
 気に入ったみたい。
 圭ちゃんすごい……』

圭司は、早苗にむけて親指をたて、くちびるの片方をくいと上げて笑った。

ソファから腰を上げたフレデリックが、圭司の両の肩をポンと叩いてから両手を広げて何かひと言つぶやき、『アリガトゴザマス』とわざとらしいお辞儀をした。

『なんて?』

『優秀だ、続けてくれ、って』

早苗に笑顔が戻った。
それを見て圭司はホッと息をついた。
早苗が困らなければいい。

『あ、そう。よかった。
 オーダーあるの?
 ポーズとか、パターンとか』

『あるけど、
 圭ちゃんにまかせるって』

『じゃ段取りよくやるか』

圭司の笑顔からは、仕事を楽しもうという明るさがこぼれていた。

『圭ちゃん、助かった。
 ホントありがと』

窮地を脱し、何とか責任者の体裁をたもった早苗は、圭司の手をぎゅっと握るとすこし涙ぐんだ。



 
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