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星と僕たちのあいだに
第5章 それぞれの枕辺
 


自分の乗る車が会社とは違う方向に走っていることを、早苗はずっと前に気づいていた。
このまま行けば、昔よく行ったシティホテルへ続くバイパスに乗ることになる。

『社に戻るんじゃないのね』

センターコンソールに肘をついて、ぞんざいな態度で運転する河村は、早苗の口調が自分をとがめるものでないことに気をよくした。

『ちょっといいだろ。
 ドライブだよ』

早苗は、あきれたようにほくそ笑み、ゆっくり首を振った。

『あたしって、
 そんなにたやすいのかしら』

『まさか。
 キミを知る人で、
 そんなふうに思うやつは
 いないんじゃないかなぁ』

最初から早苗を抱くつもりで、立ち寄り先からスタジオへ顔を出した河村は、男なら誰でもするように、バレても構わない下心をいちおう隠した。

『今日のカメラの彼、
 どういう関係?』

『ずいぶんはっきり訊くのね。
 気になる?』

『あぁ、すごくね』

『じゃ、教えてあげる。
 彼は独身。
 とても清潔でヘルシーな関係よ』

皮肉をこめて言ったあと、早苗は何にとはなく憂鬱な心境に閉ざされた。
「仕事、無理するなよ」と言った、去り際の圭司の笑顔が脳裡に浮かび、自分なりの理由を抱えていたとはいえ、河村の誘いに応じた後悔が呼びおこされた。

『なるほど、清潔か。
 親しそうに話してたから、
 ひょっとしたらと思ってね。
 優しそうな二枚目だったし』

『そうね。妬くの?』

『僕は妬けるような
 立場じゃないしな』

『そうよね……』

すこし首をひねると、後部座席の真新しいチャイルドシートが視界の隅に入る。
河村の車に乗ったときから早苗の気分が冴えないのはそのせいもあった。


 
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