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隷従超鋼ヴァギナス [3] 浸蝕編
第3章 時田
 立ち去っていくケイの後ろ姿をデッキから見上げる男がいた。

「たまんねえケツしてやがんなあ……」

 整備士の時田である。
 しかし、素敵なケツも高嶺の花。盗み見ることはできてもそれだけだ。

「ああ、つまらねえ……」

 それが彼の最近の口癖となっていた。

 実を言えば、小さいころからの口癖でもある。親に捨てられ、孤児院で育ち、また大して学業もできなかった彼は荒んだ学生生活を送り、社会に出てからも極穏当に貧しく、味気のない生活を送ってきた。

 若くしてすれてしまった時田にとって、《侵略者》という存在はピンとこない。そもそも彼はこの地球規模の大襲撃で何も失っていなかった。失う物がなかったからだ。

 それに、彼にしてみれば、生きるということは形のあるものにせよ、そうでないものにせよ、ただの奪い合いだった。孤児院の学長もそうだったし、学校の教師たち、不良仲間たち、そして勤め先の工場のクソな経営者と同僚たち。

 誰も、彼に何かを無償で与えてくれることはなかった。もちろん、時田もそれは同様だ。お互いに利用し、利用される。ただそれだけ。それが人生というものだと思っていた。

 だから、侵略者の襲来から逃げ延び、この潜水都市で生活を始めたものの、大して周りの環境が変わったとも思えなかった。

 いや、ひとつだけ、どうにも我慢できないことがあった。

 潜水都市には風俗がない。AVもない。ポルノ雑誌もない。つまらない日常の、心の隙間を埋めてくれていたものがなかった。そんな場合ではないからだ。せいぜいが今のように高嶺の花の美少女の尻を眺めて目の保養とする程度だ。

 だが、それももう二年。保養は保養ではなくなっていた。これでは拷問だ。いつブチ切れてもおかしくない。

(銀河ケイ……アイツは絶品だぜ! ああいうオンナと一発ヤレたら……クソッ!)

 自分の中の狂暴な獣性が、鎖が断ち切られるのを今か今かと唸り声を潜めて待ち構えているのが感じられた。
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