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透明犯罪捜査官 美荻野凛々香の非日常
第4章 ―円拓の非日常―
 口の中に隠し持っていた小型のペンライトを取りだすと、暗闇の中で引き出しの中身を確認していく。一通り調べた後、今度はパソコンを操作してフォルダやメールをチェックする。

(特に怪しいドキュメントや、メッセージのやり取りはない……やはり、彼女自身はまだ何も情報を持っていないと見て良いな)

 痕跡を残さぬよう注意をしながら、引き出しとパソコンを元に戻す。部屋は再び薄闇へと帰った。闇に眼が馴れるまでじっと動かずに待ち、円拓は寝室へと戻った。

「瑠偉……人……」

 ベッドから凛々香の呟きが聞こえ、身を固くする。

(寝言……だな? 食事には睡眠誘導剤を混入しておいた……朝まで熟睡のはずだ)

 念のため、確認しようとベッドに近づき、凛々香の寝顔を眺め、瞼が降りているのを確認する。睫毛の先が濡れているようなのは涙の痕だろうか。連絡のつかぬ恋人を想い、悲嘆に暮れたまま眠りに就いたのだろうと察しはついた。その恋人である瑠偉人は、バーでヤケ酒を飲んでいる。それは数時間前の仲間との定時連絡で確認してあった。

 凛々香の睫毛についた涙の粒をそっと拭う。拭ってしまってから、拓は自分がそんなことをしたのに軽い驚きを覚えた。

(……情でも移ったか)

 いや、情が移らないほうがおかしい。数日ではあるが、この女――美荻野凛々香のプラベートの全てを見て来たのだ。その裸も、情人とのセックスも、そして今日のあの、シャワー室での自分で自分を慰める切ない姿も……

 ゴクリ

 拓の喉が鳴った。指が、凛々香の頬に落ち、優しく肌をなぞる。

(何をしている……俺は? 俺は……どうしてこんなことを……)
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