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透明犯罪捜査官 美荻野凛々香の非日常
第4章 ―円拓の非日常―
    ※    ※    ※

「納得いきません……一体彼女が何をしたというんですか!」

 ブリーフィングの席で真っ先に憤りの声を上げたのは拓だった。同席の仲間たちも幾人か、同じような想いを顔に出している。

「……何も。何もしてはおらん」

 答える上官の声は乾いていた。

「問題は、彼女がこれから何をするかなのだ」

 看過できぬほどの拡大を見せている透明犯罪。このほど警視庁は、その根本たる透明ドラッグの出所経緯を把握するため新しい捜査チームの設立を決定した。透明犯罪捜査二課という。彼女はその中心的人員になる見込みなのだそうだ。そして、拓たちの任務は、彼女を破滅させること。そう告げられたのだ。

「将来、彼女の率いる捜査チームによって、透明ドラッグが我々自衛隊の極秘研究の産物などということが明るみになってみろ……何が起きると思う! 国内だけではない。今や透明ドラッグは海を越え、外国でも騒ぎを起こしている。その原因が我が国の、しかも公的機関であるなどということが知れたら、国際社会における信用は失墜する!」

「……つまり、彼女は国益のための人身御供だと? 国益のためなら何をしても許されると?」

「言葉には気をつけたまえ、円二佐! 尊い犠牲……国家を、引いては日本国民全体を守るためのやむを得ない処置なのだ!」

「詭弁です! 我々自身の失態の責任を、彼女を陥れることでもみ消そうということではないですか!」

 失態。それはカネに困っていた研究員の一人が調剤方法を闇社会の組織に売り渡してしまった事だ。内部調査によってそれが明らかになった時、事態はすでに手遅れとなってしまっていた。保身に走った隊組織は世間を騒がす透明犯罪に頬被りを決め込み、あまつさえ今、こうして隠滅工作をしようとしているのだ。

「嫌なら降りてもかまわん。特別に拝命拒否を認めよう……この私がお前たちの気持ちがわからないと思ってくれるな。だが、お前が降りたとしてもこの任務は実行されるだろう。他の誰かが手を汚す、それだけのことだ」
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