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愛玩男奴 お兄ちゃん
第1章 男奴の館
 他の動物が食べ残した獲物を漁る動物がいる。私たちにもそれがいた。お兄ちゃんと私が二人きりになった途端に、狙っていたかのようにその人たちはやって来た。野晒しになった死体にゆっくりと歩み寄る様に。

 お父さんが研究の為に借りていたお金を返せと、怖い人たちがいっぱい来るようになった。

 学校を辞めて働くことを決めたお兄ちゃん。成績優秀で、剣道部の主将も務めていたのに。

 背も高くてカッコいいお兄ちゃんは私たち下の学年の女子にも人気で、バレンタインにはいっぱいチョコレートを貰っていた。直接渡す勇気がない子から頼まれて、私が代わりに受け取ったこともある。お兄ちゃんが退学するって知ったら、あの子たち皆泣いちゃうだろうな。

 それなのに、怖い人たちはそれぐらいでは足りないと言う。私にも働けって、女の子のほうがいっぱいお金を稼ぐ方法があるって。

 そう言われたとき、お兄ちゃんはすごく怖い顔をしてその人たちを追い返した。物凄い怒鳴り声で。私は泣いてしまった。

「心配すんなよ、つぐみ。俺が絶対守るから……」

 優しいお兄ちゃん。いつも私のことを一番に考えてくれる。でも、私たち本当にどうなってしまうんだろう。不安で仕方なかったけれど、その言葉を口にすることはできなかった。お兄ちゃんだってきっと不安で一杯のはずだ。私がそんなことを口にしても、お兄ちゃんを困らせるだけ。

 ううん。本当は、質問に対してお兄ちゃんが答えられなかったときのことが恐くて恐くて、しかたがなかっただけなのかもしれない。
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