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君は僕のものだった
第1章 君は僕のものだった
 エレベーターのない3階からの引っ越しは、苦労が多いことをぼくは知っていた。


「こんちはー」


 だから、ながいあいだ、そこに住むしかなかったんだと、ぼくは自分に言い聞かせていたのかも知れない。



「ひさしぶりー。げげっ、相変わらずきったないなー」



 妊娠6ヶ月だという彼女は、週数のわりに前にせり出しすぎている腹を抱えながら、持参したド派手な花柄のエプロンをしめ、畳の上で膝をつき、なにも考えていないようにしか見えない手つきで、ダンボールにモノを放り込んでいく。

 
「なにこの部屋!・・・え?昨日から片付けてたって?・・・これで?マジ?片付けの才能なさすぎじゃない?」


 エプロンの蝶結びがタテになっている。
 妊婦用と思われるワンピースは3シーズン目の出番だからなのか、毛玉が目立っていた。


「うわー思ったより時間掛かりそうだなぁ。昼過ぎには帰るって言っちゃったけどどうかなぁー。あーあ、お母さんも迷惑だよねぇ、こんなに荷物残して突然ポックリ逝っちゃうなんてさー。逝く前にデンワくれたらパパと一緒に片付けに来たのに。孫見せるついでにさぁ。・・・って死ぬ時期が自分でわかるわけないもんねー。シンキンコウソクだったんだもん、しょうがないよねぇ」


 彼女は自分で言ったくせに、ふと不安げな表情を浮かべ、フキンシンかな?と、ぼくの顔色を伺った。



「・・・あぁ、笑ってくれてよかった。むかしから案外フキンシンなブラックネタが好きだもんね」


 20歳という若さで、もうすぐ3人の子の母になろうとしている彼女は、大きな腹さえ見なければまだ高校生くらいにしか見えない。
 いや、事実、最初の子を妊娠したとき高校生だった。
 あどけなさの残る化粧っけのない白い頬はむかしのまま変わっていない。
 しかし、年若い母親の仕事っぷりは、指先によく表れていた。


「うちのパパはなんていうのか、一発ギャグ的なのでしか笑わないから、じつのところシュミが合わないんだよね。夫婦間で笑いのポイントが違うとこんなにつまんないのかぁーって実感してるところだよ、ほんと」

 

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