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君は僕のものだった
第1章 君は僕のものだった
 赤くひび割れた傷口には赤い血が滲んでいる。
 ぼくが20歳のとき見た彼女の色とおなじ。
 うしろでひとつにしばった彼女の長い黒髪が、動きに合わせて揺れている。
 むかしみた髪は白い背中にかかっていたけど、いまは黒いニット地の上だ。


「あばれる君とかけっこう面白いと思うんだけどなぁ。ねぇ、見たことあ・・・」


 突然揺れが止まる。
 彼女が振り向き、ぼくを見つめた。
 まんまるい瞳は何度か瞬きしたのち、人懐っこい笑顔にきえる。


「・・・はぁ?いやいや~。今日一緒に来てくれたらよかったのにって、そんなそんな・・・いくらうちのパパがヘンタイでも、さすがに“元カレ”の実家を片付けに来れるほど鋼のハートをもったヘンタイじゃないよぉ」


 彼女の笑顔はいま、2人の幼い子供たちと、そして、彼女がいうところの“ヘンタイ”のものなのだ。
 わかっているけれど、安堵のような寂しさが胸の中に溢れてくる。


「あ、そうそう。うちのパパね、転職したんだぁー。へっへー。実家の親がリッパだと色んなコネがあって便利だよー。オネダリしたらなんでも買ってくれるしね。いやー、愛されてるよねぇ。田舎の長男ってすごいよ、ほんと・・・」


 でも、どれだけ溢れ出ても行き場なんてないから、気付かないフリをする。
 そうやって生きてきた。
 いや・・・。


「・・・すごいの。パパもパパの親もさぁ、長男にモノを与えて、愛情ってもんを、カタチにして、見せつけるんだからさー」


 そうじゃない。
 ぼくは、幼かった君に、行き場のないモノを、ぶつけていたんだ。


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