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オーバーナイトケース
第1章 ありふれた出会い
きれいな顔立ちの男だった。

バランスのとれた目鼻立ち、細いあご、さらさらと揺れる髪。
歳の頃なら私と同じくらいか。
若くも見えるが、宿泊カードに記入するその手を見て、
私と同じ40代かと想像した。

手は、年齢を物語るから・・


ほんの何秒かだとは思うが、私は仕事を忘れた。
彼の声で、フロント係に戻された。


「ね、何時に終わるの?
 夜遅くたっていいんだよ、僕ここに泊まるんだから。
 ね、何時?」


強引な男だ。
どんなに私が困った顔をしても彼にはそれがわからないらしい。

答えをもらうまで動かないよ、とヘラヘラと笑っている。

私は・・初めて、仕事中のナンパに応えてしまった。


「・・9時までの勤務なんですが・・それでもよろしいんですか?」


その時の彼の顔ったら・・

目じりのシワが色気をかもしだした笑顔を見せられて、
私は不覚にも・・
恋に落ちてしまった・・・
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