- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
オーバーナイトケース
第1章 ありふれた出会い
2分ほど大通りを歩き、碁盤の目のようになっている細い路地を入ったところに
目的の店はあった。
いらっしゃい、と威勢のいいかけ声に、予約してある旨を伝えると
小さく仕切られている座敷へと案内された。
席に着くなり男は礼を言った。
「予約しておいてくれたんだ、ありがとう」
「いえ・・お客様をお待たせしては申し訳ないですから・・」
ホテルのフロント係にはなんてことない作業だ、といわんばかりの
冷静な返答をしたが、
じつは客のいない時に必死になって店を選び、こっそりと私用電話をかけて予約したのだ。
「さすがだね。このホテル選んで良かった。
あ、っていっても用意してくれたのは会社なんだけどね」
正面で見ると、男の顔は本当に良い顔立ちだった。
目じりを下げて微笑む男の色気は悔しいほど私のハートに攻め込んできた。