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藍の果て
第3章 陰謀


衣服を整えてベッドに座り込むと、冷静な思考が一気に舞い戻ってくる。
女は『サラ』と名乗っていた。
カジノで客引きをする女で、帰宅しようとした時に呼び止められた。
自らを今夜のみでも買ってほしいと口にするが、最初は乗り気ではなかった。
適当に誤魔化して、うやむやに女を撒くつもりだったが……。



隣に横になっている女を見下ろすと、女は既に目を覚ましていたのか此方を見つめ微笑んでいる。



「旦那はいつ戻るんだ?」




「旦那?あら、そんな事言ったかしら?酔った勢いって怖いわね」




惚ける女に更に頭痛が増していく様な気がした。
旦那が戻る頃になったら戻ればいいと言ったのは女の方だ。




「あんたに旦那が居ようが居まいが、どうでも良い。俺は帰るからな」



「冷たいわね。せめて、もう少し優しくしても良いんじゃない?もう帰るの?」




素っ気ない言葉を敢えて返してみたが、女は反応を見て楽しむように笑うだけで
口から零れる引き留めるような言い回しに、まるで説得力が無い。

―――――嫌な女だ……。




何を考えているか全く掴めない。
そもそも、既に用済みとなった自分を引き留める理由なんて無い。
カジノで客引きをする女で旦那も持たないならば、自由な金ばかりあるはずだ。
呆れた様な視線で鼻で笑って問い返してみる。




「まさか、俺と契約を結びたい……、なんて言わないよな?」





契約=婚姻。
余計な伴侶は持ちたくはないが、女はゆっくりと首を振った。




「まさか。私、結構一途なのよ……。好きな人以外、受け入れないの。好きな人の為に生きてるのよ」




「裏切り行為を平然とやってのけて、よく言うな」




女の発言は支離滅裂だ。怒りも呆れも通り越して、むしろ清々しい。
苦笑いにも似た笑みを返しながら皮肉を口にすると、女は口元を歪ませるように静かな笑みを浮かべる。




「裏切り?裏切りなんて、馬鹿言わないで。私は一途よ、忠実に〝あの人”のお役にたってるだけ……」





女の腕が一瞬何か鈍い光を放ったと同時に、振り上げられたそれがナイフだと気づく。
先ほどまでの冗談めいた女の表情はなく、凶器に満ちた歪んだ笑みを浮かべていた。





「そうでしょ?!〝バルト”亡命者。裏切り者のデイジー!!」






ドス————ッ
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