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藍の果て
第4章 バルトの復讐者
なぜ……、ナゼ……何故……?
シルヴァには見覚えがあった。
あの安らかな、この世に何も未練の無さそうな顔立ち。
眠るように息を引き取る……、その手助けをする死神の正体を。
肺が潰れそうな苦しさを押し殺して、走った。
何度も咳き込んで、喉が傷ついたのか口の周りで鉄の味がする。
それでも、足を止めれば奴の消息は一生掴めない気がした。
奴は居た。
街が一望できるバルトと他の都市の境。
一面に広がる砂漠地帯……。
そこから静かに街を眺めていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ、んで、なんで……テメェが……っ」
聞き出したい事は沢山あった。何度か隣で飯を食っていたそいつは、何気なく口にした一言。
『ここは……、良い街だな』
治安が悪いといっても、それでも賑やかに人々が活気を持って生活している風景を眺めるのが、奴の日課だった。
その、その基盤となる男を……!
「なん、で、テメェが……国王を殺したんだっ!!」
絞り出す様に叫ぶが、目の前の男は真意を語ろうとはしない。
ただずっと、街のほうを静かに見つめていた。
顔や身体に浴びた鮮血を拭うことも無く、男は呟いた。
「追ってくるなら、あんただと思ってた」
シルヴァの方に向き直った男は、まだあどけない子供の様な笑みをこぼす。
その顔が今までで一番穏やかなものだったので、シルヴァの方が拍子抜けしてしまった。
殺されるのを、覚悟したという事なのだろうか?
「ここは、王が居なくなったら……どうなるんだ?」
「っ、病の場合は……、王族の推薦した強い者が王になる。……討ち取った場合は、討ち取った者が王になれる権限を持つ」
「だったら、俺は今……王の権限を持ってる訳だな」
「……あぁ。俺に殺されなければ、テメェはそのまま王様だ」
「ふっ、くくっ……ははっ。俺が王になれば、あんたは何だ?俺の部下か?」
デイジー・クルスは堰を切った様に饒舌になる。
ついこの間までは無口な不愛想な皮肉屋だったはずなのに。
舌打ち交じりに目の前の男を見据えて言い放つ。
「冗談じゃねぇ。テメェの部下なんて願い下げだ。誰の部下になるも気にいらねぇが、テメェの下だけは御免だ」