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藍の果て
第5章 生存者


部屋の灯りから二つの影が交じり合っているのが見える。
普段の優しい自分自身を呼んでくれる母親を思わせる穏やかな女性。
オレンジの様な光と青白い月明かりの中に照らし出された姿は、リオの視界に飛び込んで離れなくなった。
女性らしい滑らかな肌に、女を象徴する弾力を持った肉感の頂きに遠慮がちに存在する蕾。
男の欲望を一身に受けそうな艶やかな身体を余すところなく見せつけている。




男の骨ばった手に包まれて餅の様に女のシンボルは丸みの形を変えていく。
唇に含まれた蕾は弄ばれるように、ざらついた舌先で転がされて鼻にかかった甘えた様な声が濡れた唇からもれる。


「あぁぁっ……んっ、あっ……」



柔らかな狭間に顔を埋める黒髪を愛おしそうに撫でる女の手首を掴んで、徐にその頭上に固定された。
拒絶をした訳でもなく自由を失っているというのに、彼女の声は不自由さよりも、より切なさを持ち熱の籠る声で啼く。



綺麗な曲線は弓なりに時折それて、水を失った魚の様に瑞々しく跳ねる。
「あっ……。やぁっ、だめっ……」
互いの人恋しさを埋めあう様に顔を寄せ合い唇を奪い合う姿は、愛情のスキンシップというよりも、リオの目には肉欲の戯れの様に見える。




――や、だっ。やだよっ。何、してるの……。




父と母の行為すら見た事もない。いくら事故とはいえ、普段の優しい表情でキッチンに立つ女性が、浅ましい雌に成り下がった様に見えて、衝撃と軽蔑の気持ちがあるのに……。
リオの脳内は違う感覚にも確実に支配されている。
少しずつ熱を持っていく下腹部、その奥がむず痒い感覚がして思わず内腿をすり合わせる。



それは、とてもイケない事の様な背徳感があるのに、自分の身体が抑えられない。
擦り合わせても痒さはもっと擦れる場所よりも上……。
自分が最も汚いと思っている場所なのに、もどかしい疼きは止まらない。



――だめっ。こんな、事……、だめなのに……。




軽蔑が含まれているはずなのに、彼女が骨ばったあの指で艶やかに乱れる姿が堪らなく恨めしい。
あの日、涙を拭ってくれたあの優しい指は、もう自分の涙を拭う為に無い。
目の前の、あの美しくて優しい、誰もが羨望し慕う女性を悦ばせる為にある。
思わず一人ぼっちになった気がして、涙が零れそうになった時だった。


何者かにその視界は覆われてしまった。
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