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藍の果て
第5章 生存者
「ふうっ……むぐっ!」
短い髪が首筋を動く度に、くすぐったさと嫌悪に震える。
抵抗の意思を示して声をもらそうとしたが、覆われる掌のせいで、上手く言葉にならない。
「静かにしろっつってんだろうが。それとも、デイジーと、その女に聞かせてやるか?」
――嫌な奴っ!助けが、呼べないのを分かってて……!
……次の手は出ない。
シルヴァには、分かり切っていた。
目の前の子供は、デイジー・クルスに心酔している。
あの男に嫌われ、見放され、捨てられることを何より恐れている。
漸く抵抗の意図を弱めた様子のリオを、味見とばかりに喉元に緩く噛みつく。
「ふ、うぅっ……、むうっ」
痛みからなのか眉根を寄せるリオの身体は、微かに身を捩る。
胸板を押し返そうとする力は、頼りないほどに弱く、いっそ敵わない事を突き付けてやりたくなる。
「辛ぇんだろ? 楽にしてやるから、じっとしてろ」
これ以上の問答は許さないと言わんばかりの低い声に、悔しいはずなのに頭の中が痺れて思考が上手く働かない。
優しく涙を拭う指先ではない。
荒々しい痛みすら感じる腕に捕まり、捕食の様に熱い唇に捕えられる。
軽い痛みが首筋を支配すると同時に、赤い花弁の痕が付けられる。
「ふっ、んんっ…………!」
嫌なのに、拒まなければならない筈なのに、リオは自分自身でも驚くほどに、されるがままの獲物となっている。
蛇のように体に巻きつく舌は、ゆっくりと首筋を這い上がってくる。
いつの間にか、口元を覆われる掌は外され助けを求める事も出来る状況になっている。
敢えて解放したのか、男の含んだ笑い声と囁かれる言葉は状況を愉しんでる。
「声出して、あいつを呼ばねぇのか?」
「んっ……」
唇を噛んでせめて声を押し殺そうとするリオに、追討ちをかけてくる言葉。
「呼ばねぇなら、俺の好きにさせて貰うぜ」
「まっ……!や、だっ……ぁっふ」
制止させようと肩を押し返すも、水っぽい感触が耳をなぞる様に動くと、切ない吐息と女の誘うような声が自然ともれた。
さっきまで、自分自身が軽蔑したような弱く男を誘うような声色。
既に抵抗の意図すら見えない両手は、嫌いな男に縋る様にその肩を掴んでいた。