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藍の果て
第5章 生存者
「声を殺してぇなら、俺にしがみついてろ」
乱暴な手つきで腕を引かれて、男の首を抱くように固定される。
その肩に顔を埋めて声を殺すのが精いっぱいだった。
幼いころに甘えられていた肩や胸とは違うのに、今は目の前の憎らしい男に縋らなければ自分自身の身体も鎮める事が出来ない。
――それでも、傍にいるデイジーには聞かれたくない。
耳の輪郭をなぞるように動く舌先に身震いする。
それでも逃がすまいとする男の腕の中で、その服を噛んで必死に声を堪える。
「ふ、んんうっ……はぁ、んうっ」
「耳、弱ぇのか?」
男の囁きが聞こえたが、それどころではない。
確かに舌先が這いまわる耳に意識は向いているが、そこを起爆剤として全身が疼いてしまっているのだから。
そもそも、何が弱いかすらリオにとっては未知の感覚であり、シルヴァの言っている意味すら殆ど理解できないままだ。
時折痛みを感じるほどに荒々しく吸いつかれるかと思えば、焦らされ高ぶられるように唇で軽くなぞられる。
殆ど初対面のこの男に、リオの身体は見透かされているかのように、触れてほしい所を暴かれていく。
やがて、その手はリオのシャツの中へと滑りこんできた。
「ふ、あっ……、や、だっ、やだっ……ぁ」
「っ、お前……、これ……」
どこか戸惑うようにシルヴァの手が止まる。
上半身の殆どに巻かれた晒し布。
それは女を隠す代物ではなく、彼の中では重傷の痕と捉えたのだろう。
思わずリオを突き放すようにして、身を離す。
突然に解放されたリオの幼さの残る華奢な身体に、一気に冷静さが呼び起されてくる。
どこか罰の悪そうな表情を浮かべて小さく舌打ちを零すシルヴァは、不機嫌そうに顔を反らして踵を返す。
こんな小さな子供を、抱きそうになったのか、と。
「っ、覗きばっかしてねぇで、さっさと、寝ろよ……クソガキ」
「なっ……!?」
殆ど巻き込まれたに過ぎない、リオの驚愕と怒りに満ちた表情を見る事もなく、シルヴァは立ち去ってしまったのだった……。