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藍の果て
第5章 生存者
気になっていたのは、装飾品の店だ。
自分の掘った原石が磨かれ削られ、輝きに満ちた宝石として並べられている。
リオは滴の形をした藍色のペンダントとイヤリングのアクセサリーだった。
「わぁ。綺麗」
思わず呟くと、店主の男が愛想よくリオへと微笑みかける。
「お兄ちゃん、奥さんへのプレゼントかい?」
「え?あ、いやっ、そういう訳じゃなくて……」
ただ目に留まってしまったなんて、先を勧めようとしたが客を口説き落とそうとする商人の口の上手さはリオの比ではない。
あっと言う間に圧倒されて、店主のペースに流されていく。
「ほう。こりゃ、お兄ちゃん、お目が高いよ。珍しい宝石でね、今朝方職人から仕入れたばかりなんだ。
今なら、これくらいにサービスするよ」
定価を表す数字を書き出されたが、とてもではないが、リオの給料で支払える額ではない。
エンゲージリングと考えたとしても、渋るほどの額である。
そもそも、リオにとってエンゲージリングなんて物は必要も無いのだ。
「いやっ、本当に、大丈夫。僕、間に合ってるし……奥さんも、居ないから」
押しの強さに思わず苦笑しながら断って、デイジーの所に戻ろうとした時だった。
強い衝撃に弾かれるようにぶつかって、身体がバランスを崩すとリオは尻餅をつく。
それは、一瞬の出来事だった。
店に並べられた色とりどりの装飾品たちは、荒らされた様に乱雑な散らばりを見せ
リオや人々の群れを押しのけて乱暴に駆けだしていく背中が一瞬だが見えた。
その勢いに呑まれたのか、同じく店主もバランスを崩して寝転がってしまっている。
「あ……っ!」
リオは先ほどとの店の異変に気付いた。
一際目を引く存在感だったからだろう、それは直ぐに〝そこ”に無いことを知らせてくれる。
「ペンダントが、無い」
「どっ、泥棒だ!泥棒ーっ!誰かっ、誰かあいつを捕まえてくれ!!」
店主の叫びを聞き終えるより早く、リオは腰を上げて走り去っていった背中を必死になって追いかけたのだった。