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藍の果て
第5章 生存者
「捕まりたくないなら、何で泥棒なんて……」
「好きでやった訳じゃ……、このまま捕まって〝戻される”よりマシです!」
フードを深々と被った泥棒は丁寧な口調だが、その叫びから覗くエメラルドグリーンの瞳は警戒と怯えを含めている。
「あんた……、まさか……っ」
何かを勘付いたのか、泥棒の身に着けていたコートの袖を、下の服ごと勢いよく捲り上げる。
泥棒が拒むようにデイジーの手を制止させようとしたが、呆気なく細い腕が晒されてしまった。
誰かに受けたのか生々しい青痣が所々斑点模様に広がっていて、英語にも似た民族文字の焼き印が見えた。
「……っ、やっぱり。バルトの〝奴隷”か」
「奴隷!?」
衝撃を受けた様な表情でリオが問い返すと、デイジーは小さなため息とともに珍しく眉間に皺を寄せ苦い表情をする。
赤い瞳は、捕まえた焼き印を静かに見つめながら淡々と語りだした。
「ああ。昨日も話した通り、バルトは力の強い者が実権を握る場所だ。
自分たちの領土を求め、戦を仕掛ける事も多い。その度に、他の民族の捕虜を捕まえてきては使役するんだ」
事情を説明している傍から、捕まえられた腕の印を隠すように袖口を直す。
自らフードを取り去ると、ブロンドの柔らかそうな毛並みの髪が表れて、あどけなさの残る大きなエメラルドグリーンの瞳は、此方の様子を伺う様に見つめてくる。
泥棒の正体は、まだ幼さの残る少年。
経緯として図星を突かれたのか、直ぐに長い睫毛を伏せてぽつりと呟く。
「そちらの方の仰る通りです。僕は、強制的にバルトの兵士たちに拉致されて、三年もの間強制労働などを強いられてきました」
「それで、隙を伺って逃げてきたのか?」
「はい。……無許可に逃げ出せば、罰せられる。それでも、僕は……、やらなければいけない事があるんです。
ほんの僅かな間だけでも良い、どうか、匿(カクマ)って頂けませんか?」
「……、悪いが、俺たちは、あんたに親切にする義理も無い。犯罪の片棒を担がされるのも御免だしな」
「デイジーッ!!」
即答で突き離すとは思っていなかったのか、リオは制止する為に呼び止めるが、腕組みをして冷めた視線を落とすだけだ。