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藍の果て
第7章 疑惑
「え?」
確かに、リオはジークが受け入れられる事を願っていた。デイジーが受け入れてくれた事が不満な訳ではない。
だけど、手放しで喜べない複雑なタイミング。
デイジーの心変りが余りに突然すぎて、違和感を覚えずにいられない。
「デイジー、さん?本当に良いんですか?」
しかし、一番戸惑っていたのはジークである。
いや、戸惑う、というよりは、明らかにその瞳の色は、疑心へと変わっていく。
デイジーは、そんな彼の瞳の色合いなど意に介す事もなく、いつもの様に大袈裟に肩を竦めた。
「あぁ。リオに根負けした。頑固な所はあると思ってたが、まさかここまでとはな。」
「うるさいな、もう。デイジーだって、十分頑固だよ」
両者の他愛も無い生易しい討論を聞いていたジークは、改めて腰を折り深々としたお辞儀で感謝を示していた。
「ありがとうございます!」
「ただ、居候なら色々と働いて貰う事になる。家は働かない奴は、飯にはありつけない規則になってる」
「も、勿論、僕に出来る事ならば、何でもやりますよ」
顔を上げたジークとリオは互いの顔を見合わせた。
どちらともなく、笑みが零れて手と手を握り合う。
「やったね!ジーク」
「はい!ありがとうございます、リオ君」
「さて、戻るか。ユリアも待ってる」
「うん!」
日の傾きは強い日差しから焼ける様なオレンジに彩られて、冷たい風が肌を掠めていく。
少し肌寒い日は、デイジーの大きな掌に包まれたくなったものの、ジークの存在が躊躇わせる。
きっと、今デイジーの手を握れば、その体温は、さっき握られていたジークの手の温もりと錯覚しそうだった。
デイジーが訪れる前に一瞬見つめあった沈黙の瞬間、吸い寄せられそうなエメラルドグリーンの瞳は、まだリオの胸の中に光っていた。
同い歳くらいの子からの視線に、リオは初めて緊張した。
だからなのか、デイジーの登場に少しほっとしている自分もいる。
少し前を歩くデイジーの後姿を見つめながら、リオは小さく自分にしか聞こえない声で彼に謝罪と感謝を告げた。