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藍の果て
第8章 交渉
「僕は、三年前に何も出来なかった。この三年間だって、ここは住みにくい所と知って自分が何が出来たかなんて良く分からない。
それは……僕は、知らな過ぎたからだと思うんだ。ジークが無理矢理に働かされた、シルヴァが統治する、デイジーが昔……仕えていた場所。僕は、バルトの事を知りたいと思うよ。
知った上で、僕がもしかしたら何か出来るかもしれないって」
強い者が生き残る、絶対王政。捕まえて来た者を皆捕虜として捕らえてしまう野蛮な地。
今は、リオの中ではバルトはその印象だけである。
しかし、それはパルバナで生きて来たリオの考え方だ。もしかしたら、バルトに向かえば何か違う価値観が芽生えてくるのかもしれない。
そんな自分自身を見つけることにも、悪くないとリオは思い始めていた。
「ユリア、勝手に決めちゃってごめんね。でも、ユリアが心配してくれたのは、凄く嬉しかったんだ。
ジークも、僕の事を気にかけてくれてありがとう。でも、僕は大丈夫」
二人にきちんと笑って答えられた事に、リオも自分自身で驚くほどに、この状況を受け入れてしまっている事に気づく。
二人の視線を浴びても、きちんと背筋を伸ばして胸を張ってお別れを言える気がした。
その時……、白銀の柔らかな髪を、くしゃり、と撫でる手が何時ものようにそこにあった。
「リオ……」
身を少し屈めてリオに合わせる赤い瞳。やはり、いつ見てもそれは綺麗だと思えた。
きちんと笑おう。三年間お世話になった人だ、自分の命を救ってくれて、ここで生きる方法を一から教え込んでくれた人。
「デイジー。僕……、ぼく……あの……あのね……」
色々と伝えたい事があった。今までありがとう、だとか。
ユリアやジークの事を宜しくね、だとか。
三年間の沢山の思い出が蘇ってきて、肝心な時に自分の口は情けないほどに言葉が出てこない。
代わりにせめて笑ってと思っていた視界が、だんだんと霞んで彼の赤い瞳ですら見えなくなっていく。
暖かい水が頬を伝っていくのを、あの頃と変わらず丁寧に彼の指が掬い取っていく。
そして、デイジーが出会ってからずっと身に着けている小さなガラスで作られ加工された様な破片の首飾りを、リオの首ゆっくりとかける。
「リオ、お前にこれを渡しておく。俺の大事な物だ。ちゃんと持ってろ」