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藍の果て
第8章 交渉


罰が悪そうに舌打ちすると、ガリガリと荒々しく頭を掻く。
そのシルヴァの仕草に思わずデイジーも肩を震わせて笑ってしまっていた。
その笑いが漸く治まったころ、荷物を抱えたリオが到着した様だった。



「何で、二人が?」


ぽかん、と一瞬呆けた様子のリオに、二人とも互いを見ることは無いが、言葉を被らせて"たまたま会っただけ"だと告げる。
やって来たリオの頭を優しく撫でて、何時ものように微笑んだ。

「またな。リオ」


「うん。行ってきます、デイジー」


今度は最高の笑顔で、暫しのお別れを告げられた。



「おい、さっさと来い、クソガキ。置いてくぞ」



暫く歩いた先にシルヴァが面倒くさそうに声をかけてくる。
やっぱり、腹の立つ奴だと、再認識しながらもリオは足早にその立ち姿を追いかける。

「うるさいな!分かってるよ!!」



駆け出していく途中で、振り返るとお気に入りのレンガの家が見えた。
木のトンネルも、ユリアのお気に入りの畑も、デイジーと稽古をした広い庭も。
全てが見渡せて、そして少し小さく見える。



「何やってんだ、ノロマ」



「いてっ……」


後頭部を軽く小突かれ、顔を上げると僅かに瞳を細めた目つきの悪い男が呆れたように見つめている。
後頭部の微かな痛みを撫でながら、リオは文句を口に出そうとしたが、その言葉を失う程にまっすぐにその瞳は同じようにレンガの家を見つめていた。



「……悪くねぇ、場所だったな」



「え?」


「っ、何でもねぇよ、クソガキ。あー!テメェの足に合わせてたら辿り着きゃしねぇぞ!」


「別に遅くないだろ!僕だってちゃんとついて行ってるよ!」



その呟きは目の前の男から本当に出てきた言葉なのか、耳を疑うかのように顔を上げたが、直ぐに踵を返して再び歩き出す。
苛立ちを含んだ次がれた言葉の方が大きく響き、売り言葉に買い言葉を続けながら。
リオは三年間育った家を、後にしたのだった。
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