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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 背後の『オス』は、勝手に息を荒くさせているわけではない。
 彼は詩織の後ろ姿に触発されて、熱い情欲を口から漏らしているのだ。
 いや、漏らしているのではなく、詩織が彼にそうさせているのだ。
 詩織の普段の、ただ立っているだけの服を着たその姿が、『オス』の口から妖しい熱気を引きずり出しているのだ。

 ――私の身体が……
 ――この人を興奮させてる……
 そう思うと、詩織の身体はまた一段、熱を帯びる。

 ――この人は、私をどんな眼で見てるんだろう……?
 女体を初めて見るオスのような、本能むき出しの、ぎらついた眼だろうか?
 それとも、メスの身体もその鳴かせ方も知り尽くした、余裕に満ちた眼だろうか?
 ――どっちの眼でも、いい……
 ――そういう眼で見てくれるなら……
 ――嬉しい……

 ハッ……
 ハッ……

 オスの息が、耳元にまで近づいてくる。
 その息づかいは、詩織の服を通り抜けて、全身の肌という肌から体内へと染み込んでくる。

 詩織の身体は力が入って固くなっているのに、内側はどんどん柔らかく溶け出していくようだ。
 『サロン』に通う前にこういう息づかいを聞いたのは……いつのことだろう……?

 ハッ……
 ハァッ……

 「……ぁ……っ……」
 詩織の口から声にならない声が漏れた。
 ――この感じ……
 ――もっと……

 不意に、詩織の頭皮がわずかな振動を感じ取った。
 ――えっ……
 オスの手が詩織の長い黒髪に触れたようだ。
 身体が勝手にびくつく。
 男性は詩織の髪質を品定めするかのように、毛先の束を手のひらに乗せて、ぱらぱら……と何度か広げているようだった。
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