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背後偏愛サロン
第2章 渇き
※ ※ ※
火曜の夜だった。
夜の八時過ぎくらいに玄関のチャイムが鳴った。
和真が仕事から帰ってきたのだ。
詩織は足早に玄関へと行き、扉を開けた。
「おかえりな……」
詩織は言いかけた言葉を最後まで言えずに唖然としてしまった。
玄関前のマンションの廊下には、スーツ姿のいつもの和真の横に、若い娘が立っている。
しかも和真は、仕事用の手提げ鞄と一緒に、大きなキャリーバッグまで手にしていた。
詩織は若い娘の顔を見て、驚きと笑顔の混じった表情で言った。
「マナ……? えっ、と……どうして……?」
「わあ! シオリ姉ちゃん相変わらず肌白っ! 舐めていい?」
「えっ?」
詩織にマナと呼ばれた娘――愛海は、夕飯の準備でまくっていた詩織の腕に、おもむろに舌をはわせた。
「ちょ、ちょっと……!」
「詩織、言っておいてくれたら僕が迎えに行ったのに」
和真が愛海を玄関に入れながら言った。
「……言うって、何を……?」
その場で詩織も和真も愛海も、不思議そうな顔でお互いにお互いの顔を見合わせた。
※ ※ ※
通話が終わり、詩織はスマホを切って言った。
「やっぱり忘れてたって」
「まー、お母さんこないだも入学金振り込み忘れ寸前だったもん」
リビングのテーブルにうつ伏せになりながら、愛海が言う。
詩織のいとこである愛海は、都内近郊の第一志望の大学に合格し、春から一人暮らしする部屋を探すため、しばらく詩織の家に居候するつもりでやってきたのだった。
愛海の実家から都内へは二時間以上はかかるので、何度も往復を重ねるよりはその方がいいだろう。