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背後偏愛サロン
第2章 渇き
 詩織の叔母、つまり愛海の母親が前もって電話で詩織に頼むことになっていたらしいが、彼女はすっかりそれを忘れていたのだ。
 叔母にはよくある話で、しかも当の本人はほとんどの場合それを気にしていない。

 「現役なんて大したもんだ、これで愛海ちゃんは学部まで同じの僕の後輩になるんだなあ。詩織、お祝いでもしてあげようよ?」
 上着を脱いでリビングに入ってきた和真はそう言いながら、テーブルのいつもの場所に腰掛けた。
 「ホント!? お祝い!? やったあっ!!」
 無邪気な顔で愛海が両手を上げる。

 「愛海ちゃん、よく僕の顔覚えてくれてたね」
 「覚えてないよ」
 「え?」
 「じゃあマナ、どうやってカズくんだって分かったの?」
 「なんとなく。でも駅からナビと一緒の方歩き出したし、絶対そうだって」

 愛海はいつもこんな調子だ。小さな頃からやたらと勘が鋭くはあったが、無謀な話だ。
 叔母が無頓着なら、愛海は無鉄砲である。

 「マナ……人違いで悪い人だったらどうするの。危ないでしょ?」
 「だぁーいじょうぶだいじょうぶ! もう十八だし」
 そういう問題ではない。
 「お腹すいただろう?」
 和真が横やりを入れてきた。
 「ぺこぺこぉ」
 愛海はそう言ってまたうつ伏せになった。

 詩織は困ってしまった。愛海が来ると分かっていれば三人分の夕食を用意できたのに、二人分しかない。
 余っている食材で何が作れるか考えていると、大きく振っている和真の手が視界に入ってきた。
 和真は人差し指を唇に当て、もう一方の指で愛海を指している。
 愛海は、うつ伏せのまま寝息を立てて眠っていた。
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