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背後偏愛サロン
第2章 渇き
 ……ぁ……ぁ……
 詩織は、そっと書斎の扉に近寄った。
 ……ぁ……ぅ……っ……
 極めてかすかな声だが、間違いなく『オンナ』の声だと詩織は悟った。

 別に愛海くらいの歳の娘がオナニーをしていたところで不思議ではないし、もちろんとがめるつもりもない。
 人の家に転がり込んできた初日に大胆だとは思うが、それも構わない。
 ただ、和真に聞かせたくない、と思った。
 和真が夜中にトイレに起きて、この声に気づかないとも限らない。

 ……ぁぁ……っ……
 愛海の声に、詩織の下腹の奥で何かが動いた。
 「……」
 詩織はできるだけ音を立てないよう、寝室の扉を開けて入っていった。

 ダブルベッドの中では、布団をかぶって和真が寝息を立てている。
 仕事で疲れているのは分かっている。こんなことで起こしたくはない。
 いつも――『考えながら』なのも分かっている。
 それでも、詩織は和真の肩を揺すった。

 しばらくして、和真は寝ぼけまなこで、か細い声を出した。
 「どうした……?」
 詩織は目をそらして黙っている。
 「……何かあったのか詩織?」
 「……したいの」
 詩織はしぼり出すように言った。
 「……今日は土曜じゃないだろ?」

 『そんなことじゃなくて』『そんなルール決めてない』『今したい』……言いたい言葉は次々浮かぶのに、結局詩織はそのどれも口に出すことはできなかった。
 和真は、そのまますぐに寝入ってしまった。
 詩織はそっと布団に入り、目をつむった。
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