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背後偏愛サロン
第2章 渇き
 詩織は書斎へ行き、そっと扉を開けた。
 愛海はとっくに起きていて、パジャマ代わりのスウェット姿で敷き布団の上にうつ伏せになり、和真の本を読んでいた。髪もぼさぼさのままだ。
 キャリーバッグは開け放たれ、乱雑に押し込まれた衣服がはみ出している。
 好きにしてくれていいのだが、いつまで起き抜けの格好でいるつもりなのだろう。

 「あ、シオリ姉ちゃん今日どっか行こうとしてた?」
 先に口を開いたのは愛海だった。
 ――え……っ……?
 心の中を見透かしたような愛海の言葉に、詩織の心臓は高鳴った。 
 「うん、いや……」
 詩織は曖昧な返事をするので精いっぱいだった。
 「お姉ちゃんいなかったら家に入れないでしょ? もう少ししたら部屋探しに行ってこようと思って」

 愛海がしばらく外に行くなら、好都合かもしれない――。
 詩織の脳裏に『サロン』にある紅いビロードのカーテンがよぎった。
 愛海から不意打ちの質問を食らいながらも、そんなことを考えてしまっている。
 愛海がちゃんと部屋を探すつもりでいたことも分かったのに、それもどうでもよくなっている。

 「お姉ちゃん?」
 「……あ、ごめん。うん……その話しようと思って。マナが帰ってくるまでに戻るようにするから……何時ごろに帰る?」
 「あー、気にしなくていいよ? あたしが先だったら、そのへん散歩でもしてるし。何時までかかるか分かんないもん」
 「ねえ、一緒に付いて行こうか?」

 詩織は、自分で何を言ってるんだろうと思った。
 高校卒業するかしないかの娘が、親の同意書と合格証書を持っているとはいえ、一人で賃貸部屋探しなどできるのかと心配しているのは嘘ではない。
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