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背後偏愛サロン
第2章 渇き
 が、今、詩織が考えていることは――
 そんなことではないはずだ。

 「平気。ひとりのが気楽だし」
 愛海はさらっと答えた。



 その後リビングに戻った詩織がしたことは――『サロン』へのメール送信だった。
 何度も送るのをためらっていたのが嘘のように、あっさり送信ボタンを押した。
 しかもメールには『今日も触られても構いません』――そんなひと言まで添えていた。

 二十分ほどして、メールの返事が来た。
 今日の『サロン』は――南青山だった。
 愛海のキャンパスは都心から少し離れているし、部屋はその近くで探すと言っていたので、はち合わせることもない。

 詩織の胸には、安堵の静けさと期待へのざわつきが同時にやってきた。
 脈が上がる。
 手のひらが汗ばんでくる。

 しばらくして、着替えた愛海がリビングに入ってきた。
 「おかしくないかな?」
 すっぴんのままの、つやつやとしたとした顔で愛海はそう言って、くるりと一回転した。

 さっきまで寝転んでいた娘とは思えないくらいの変わりぶりに、詩織でさえ息を飲んだ。
 黒タイツと赤いチェックのフレアミニスカートに白のニットを合わせ、ブラウンのダッフルコートをはおっている。

 ダッフルコートは余り気味になってだらしなく見えてしまうことがあるが、サイズが少し小さめなのか、買った時より愛海の背が伸びたのか、ややタイトなのが愛海の体型には逆に収まりがいい。
 全体的に嫌味な雰囲気もなく、大人と少女の中間にある『危うさ』と上手にバランスを取っている。
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