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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 特に詩織の場合、無意識のうちに仕事をしていた頃の目で見てしまうために、普通の人には気づかないような細かなところにまで意識が及ぶ。
 袖の長さや肩の収まり方、上着のラインや丈の長さ、スカートのヒップとももへのフィット具合など、体に合っていない部分にすぐ気づいてしまうのだ。

 ただ、そんな詩織にも見えないものがあった。
 女性たちの年齢だ。
 コーディネートで明らかに若い娘だと分かる写真もあるが、髪型も凝った結び方をしているでもなく、みんな控えめで『なんとなくこれくらいの歳だろう』ということさえ分からない。
 だいたい二十歳前後から三十代くらいのように見えるが、中には四十代もいるかもしれない。

 顔が見えないだけで、こんなにも年齢の想像がつかなくなるものなのか。
 だがそのことが、ちょうど去年に二十代を終えた詩織の背中を押した。

 今日も詩織は、写真の女性たちにならってシンプルな服装を選んで来た。
 黒のハイネックニットにグレーのスカート、濃いめの黒タイツにショートブーツを合わせ、ベージュのコートを着てマフラーで口元まで覆っている。
 柄物を合わせるのはやめた。
 なんとなく、目立ってしまう気がしたからだ。

 詩織はスマホの画面をマップに切り替え、銀座線の京橋駅近くから裏道に入った一角を再びゆっくりと歩き始めて一周する。
 そうやって、目的地の入口前をまた通り過ぎる――。
 詩織はとっくに目的地に着いているのだ。
 が、指定された時間にはまだ早い。
 あと二十分くらいはある。
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