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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 歩きながら、ビルのガラスに映る自分の姿を見る。
 コートの裾から少し出ているスカートが目に入る。
 短すぎはしないだろうか。
 ひざ上程度のスカートなのに、やたら短く見える気がする。

 詩織の体型は全体的に標準なのだが、尻が少しだけ張っている。
 コンプレックスだ。
 友人やかつての仕事仲間に言わせれば、むしろ『美しいヒップライン』であるらしいが、こういうものは本人だけがどうしても気になってしまうものだ。

 スカートを買う時、既製品でウエストに合わせるとどうしてもヒップ周りにフィットしすぎる感じがする。サイズを上げると余ってしまう。そしてたいてい自分で直す。
 フレアスカートにすればよかったと思っているうちに、詩織はまた目的地の入口の前に来てしまった。

 そのビルは小さく古びてはいるが、明治や大正を思わせる小綺麗な洋風建築で、入口は格子状にガラスがはめられた木製の両開き扉になっている。
 扉の深緑の塗装のかすれ方が、この建物の長い歴史を物語っている。

 詩織は、入口前のイーゼルに掛けられている看板を見た。
 『個展“榊原回光写真展〜Ephemeral Doll”』と書かれている。
 詩織は扉の方へ足を向けようとしたが、止まった。

 やっぱり、止めようか。
 それとも、もう一周するか。
 高鳴る鼓動が、詩織の胸の内側を、急かすように強く叩いてくる。
 やがて詩織は、扉に近づき、ゆっくり開いて中へ入っていった。

 個展の会場になっているこじんまりとした室内には、二人の客がいた。
 一人は背筋をきれいに伸ばした身なりも良い初老の男性、もう一人は着物なのか洋服なのかよく分からない奇抜な格好をした猫背で長髪の若い男性だった。
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