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背後偏愛サロン
第2章 渇き
 「全然大丈夫。いい感じじゃない?」
 詩織は高まっている脈をごまかすように、ほほ笑みを作って言った。そして続けた。
 「でもスカート昨日と一緒でいいの?」
 「あれ!? あたし昨日これ履いてたっけ? んー、でもいいや」

 詩織が仕事をしていたころ、まだ少女だった愛海にファッションのアドバイスを何度かしたことはあるが、他の同年代の親戚の女の子たちと比べて無頓着だった。
 今でもさほど興味がないようで、愛海は詩織が着ている服を見ても『いい感じだね』みたいな感覚的なひとことを言うだけだ。

 それでも上手に服を着こなせるのは、愛海が元々持っているセンスなのだろう。
 いや、服がどうこうというよりも、愛海本人が持っているきらめきのようなもの、どこか自信に満ちたオーラのようなものが、全身を輝かせて見せている気がする。

 「あー、制服って楽だったな、何も考えなくていいもん!」
 仮に制服であっても、ついこの間まで着ていたのだから何の違和感もないはずだ。
 今の愛海なら、服を変えるだけで大人と少女を自在に行ったり来たりできるのだ。

 「面倒だったらホントに制服着てみたら?」「制服キライ」
 愛海の顔から笑顔が消えた。
 「楽でいいって言ったじゃない?」
 「子供っぽいから」
 そう言うと、愛海は出て行った。

 詩織は、少し嫉妬のようなものを感じている自分に気づいた。
 ――何に……?
 しばらく詩織はひとりでぼんやりと立っていたが、我に返ると出かける準備を始めた。

    ※  ※  ※

 詩織は表参道駅から地上に出て、青山通りをひとり歩いていた。
 平日の昼間であっても、道行く人は多い。
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