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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 詩織が入った時、昔ながらの喫茶店のような、扉に取り付けられているドアチャイムがカラン、と弱々しい音を立てたが、二人とも壁に飾られている写真に見入っていて、詩織のことなど全く気づいていないようだ。
 しかし実は――この二人は『サロン』の会員で、女性が入って来てもそしらぬ振りをする取り決めにでもなっているのでは――詩織はふとそんな風に思った。

 室内もビルの外観と同じく洋風だ。腰壁は深く濃い色合いの木材でできていて、天井や壁にあしらわれているモールディングも同様だ。木材には欧風の文様が彫られ、よく磨かれているのか黒光りしている。
 窓は一つもなく、四つの白い壁には三十センチ四方ほどの額縁が一定間隔で掛けられている。

 その額縁にはみな写真が入れられていた。
 十数枚くらいだろうか。
 写っているのは全て、後ろ姿――立たせた人形の写真だった。
 詩織は、ゆっくり歩きながらそれらを横目で見ていった。

 人形はみな、デフォルメされて顔が大きいとか、そういう類いの形ではなく、きちんと八頭身で作られている。
 人形にピントを合わせているために背景がぼやけてはいるが、写真は森林の中で撮られていた。
 雨上がりにでも撮ったのだろう、昼間なのに全体はくすんだ色彩で、人形の周囲の緑は雫に濡れている。
 そしてどの人形も、肩を少しはだけさせたり、スカートの裾を少し持ち上げ太ももを見せたり――そんな姿勢をとっている。

 前回、詩織が初めて写真を見た時は一瞬、人間の写真だと思ったが、木製の手先や広がりがちな毛髪から、そうでないことにすぐ気づいた。
 重心のかかり方で軽量だということもすぐに見てとれる。
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