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背後偏愛サロン
第3章 誘い
3.誘い


(1)

 詩織の身体はまだ、どこか宙にでも舞っているかのようだった。
 足はしっかりと地面を踏みしめているはずなのに、ふわふわと柔らかい綿の上を歩いているのでは、と思う。

 ――されちゃった……
 ――あんなこと……まで……

 詩織はとてつもない後悔に襲われていた。
 見ず知らずの男性に尻も股間もむき出しにして、絶頂までしてしまったのだ。
 顔を見られていないから良い、という話ではない。
 顔を隠す代わりに、詩織の心を全てむき出しにされた気分だった。

 それにこれはもう、不倫ではないのだろうか?
 いや、相手が誰なのかも、詩織が誰なのかも、知らず知られずの関係なのだ。
 入れられたのもただの『玩具』――。

 ――もう……
 ――行くのやめよう……
 そうなのだ。二度と『サロン』に行かなければよいのだ。

 そんなことを考えながら表参道駅に向かって詩織が表通りに出たとき、意外な人物に出くわして軽く悲鳴を上げてしまった。
 愛海がいたのだ。

 「……ど、うしてここにいるの?」
 詩織はつとめて冷静に言ったつもりだが、どことなく声が震えてしまっていた。
 愛海が通う大学のキャンパスとは遠く離れた場所だ。部屋を探しに行くならキャンパス近くのはずなのに、なぜこんなところにいるのだろうか?

 「一回表参道に来てみたかったんだぁ」
 愛海が愛らしい笑顔で答える。
 詩織はゆっくり息を吐いて自分を落ち着かせて言った。
 「部屋……見つかったの?」
 「なーんか不動産屋ってエラそうなおじさんばっかで、どなって帰って来ちゃった」
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