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背後偏愛サロン
第3章 誘い
 愛海らしいといえば愛海らしい。おおかた、不動産屋の方が相手が小娘だと思って見下した態度でも取ったのだろう。
 愛海が一番反発するパターンだ。
 「今度、一緒に行ってあげる」
 詩織は言った。

 実際、大人が同行した方が話はスムーズだろうし、悪い不動産屋に引っかかれば愛海などあっさり騙されて不良物件をつかまされることだってあり得る。
 それに――
 愛海のことは嫌いではないが、早く家を出て行ってもらって、元の生活に戻りたかった。

 ――『サロン』に行くために?
 愛海がいようがいまいが関係なく、詩織自身の問題ではないか?
 そもそも、もう行くのはやめるのではなかったか?

 「いいよぉ、一人で探せるし! それよりお姉ちゃん何の用事だったの?」
 『用事』と言われて、詩織は妙な罪悪感に襲われた。
 「……ちょっと友達と、ね」
 「ねえ、毎週土曜に和真さんとエッチしてるんでしょ?」
 「え?」
 いきなり、しかも人通りのある場所で何を言い出すのか。
 「やっぱそんな夫婦がいいよね、レス状態とか考えられない。早くオトナになりたい! 早く結婚して和真さんみたいな分かってくれるダンナ様が欲しいなぁ」

 いくらいとこでも、そんな赤裸々な話をする気にはなれない。
 詩織は顔が熱くなった。
 顔が熱いのは恥ずかしさのせいだけではない。
 和真にいら立ったのだ。
 和真が話す以外に、そんなことが愛海の耳に入るはずがないのだ。
 和真にとって愛海は親戚筋とはいえ、そもそも赤の他人だ。
 そんなあからさまなことまで話すなんて、何を考えているのか。
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