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背後偏愛サロン
第3章 誘い
 「お姉ちゃん、ちょっとカフェとかに寄ってこうよ?」
 愛海は何も考えていないらしく、あっけらかんと言った。
 「夕飯の支度あるから」
 詩織は、とっさにほほ笑みを作って、平静を装って答えた。
 「じゃあ一人でぶらぶらしてよーっと!」
 愛海はくったくのない笑顔で言うと回れ右して反対方向へ歩き出したが、すぐに止まって振り向いた。
 「お姉ちゃん、子供産まないの?」

 詩織の顔からは作ったほほ笑みは吹き飛び、無表情になり、愛海を見る目は鋭くなっていた。
 愛海は詩織の表情が変わったことに気づいていないのか、笑顔のままだ。
 「お姉ちゃんと和真さんの子供だったら絶対カワイイに決まってるのにぃ、ね?」
 「……そのうちに、ね」
 愛海は、詩織の返事を聞く気などないのか、もう違うところに興味が移ったのか、うきうきとした顔で周囲を見ながら去っていった。

 詩織は愛海と反対の方向へ歩き出したが、その足どりは重かった。
 しかし、その晩も次の晩も、詩織は和真を問い詰めることも責め立てることも一切しなかった。

    ※  ※  ※

 愛海が家に来てから、初めての土曜の夜だった。

 「うわー! うわー! すごいすごいすごい! シオリ姉ちゃんお店とかやった方がいいよ!」
 ミニのフレアスカートをひらひらさせながらリビングに入ってきた愛海は、テーブルに並んだ料理を見るなりはしゃいだ。
 和真の提案で今日は愛海の合格祝いをやることになったのだ。
 土曜なら和真も会社は休みだし、仕事の都合で帰りが遅くなることもない。
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