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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 なのに一瞬でも人間の写真だと思ってしまうのは、後ろ姿であること、屋外で撮られていること、そして――
 着せられている衣装があまりに精巧にできているからだった。

 単に、本物の衣服と同じような生地が使われているというだけではない。
 周りに写っている植物などの大きさから、人形は二十センチ程度だろう。その人形の身体に合わせようと服を作れば、生地の織り目や縫い糸は大きく見えるはずだ。
 なのに、それがない。

 人の服と同じように、人形の縮尺に合わせて、普通では考えられない精度で細部まで作り込まれているのだ。
 人形の方といえば、手の先は指もなく木目そのままの円錐台の形でいたって単純なのに、衣装は現実そのまま、いや、ある部分は現実以上のクオリティなのだ。
 袖口に見えるボタンの、糸を通す穴も、通されている糸も、どう見ても人間の服のそれよりもはるかに細かい。

 不自然だ。
 マネキンのように人間と同じ大きさの人形なのでは、と思ってしまうが、一緒に写っている草花と比べればやはり小さいとしか思えない。
 なんとも奇妙なのだ。

 その不自然で奇妙な衣服とあいまって、人形の顔が後ろ向きで見えないことも、人形にだけピントが合っていることも、人形が自らの服を少し乱れさせているのも、そして鮮やかさが取り除かれた色彩も――全てが合わさって、異界のもののような妖艶さがあふれ出ている。

 やがて、詩織はある写真の前で釘付けになった。
 その、森のどこかでたたずむ後ろ姿の人形は――
 詩織の服を着ていた。
 人形は、詩織が前回着てきた、ブラウンのコートと深いワインレッドのスカートを身に付けているのだ。
 細かい部分は多少違ってはいるが、間違いなく『詩織』だ。
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