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背後偏愛サロン
第4章 放ち
4.放ち


(1)

 住む部屋が決まってから三日経っても、愛海は実家には帰ろうとしなかった。
 詩織は、それとなく帰るようにうながしてはみたが、愛海は全く意に介する様子もなくそのまま居座り、相変わらずスーパーへの買い物にまでついてくる。

 愛海を、和真と同じ屋根の下でいつまでも過ごさせるのはいら立ちが募るばかりだ。
 二人の『関係』がどうなのかということだけではない。
 愛海は、詩織が『サロン』に出入りしていることに気づいているのか――?
 和真に、それを話してしまってはいないだろうか――?
 いや、もしそれを聞いたとしたら、和真ならすぐさま詩織に問い詰めに来るはずだ。

 詩織は――
 ――『サロン』を奪われたくない。
 その一心に取り憑かれていた。



 その日の晩、和真が風呂から上がり、代わりに愛海が入った時だった。
 リビングのテーブルで和真は折り紙を始めた。

 詩織はその前に座り、口を開いた。
 「マナ、このままずっと居させるつもり?」
 「まさか」
 「書斎使えないままだけど、いいの?」
 「大丈夫」
 「じゃあ書斎なんていらないじゃない」
 和真はじろっ、と詩織を見る。
 「半年も一年も使えないわけじゃない」
 「マナがここから通う、なんて言い出したらどうするの?」
 「ははは、本人がそうしたいなら、いいんじゃないか? もう一人養えるくらいは稼いでるよ」
 今度は詩織が和真をじろっ、と見た。
 「やっぱり子供があきらめられない?」
 「今さらなんでそんな話……」
 「……子供でも、カラダが成長しちゃった子供の方がいいの?」
 和真は笑い出した。
 が、どこかその笑い声は乾いている。
 「何かやましいことでもあるの?」
 詩織はここでようやく、言おうと思っていたそのひと言を和真に放った。
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