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背後偏愛サロン
第4章 放ち
 「早く出てって欲しいって思ってるんでしょ?」
 唐突に愛海が言い出した。
 「思ってないよ」
 詩織はぽつりと答える。
 今日は寒さが緩み、過ごしやすい朝だ。春が少しずつ近づいているのを実感する。風呂上りの詩織の体はやや暑さを感じている。詩織は長袖Tシャツの袖をまくった。

 愛海が冷えたトーストにかじりつく。
 「温め直さなくていいの?」
 詩織が聞くと、愛海は口の中のトーストを全部飲み込んでから言った。
 「今日ついてっていい?」
 「……何の話?」
 「お姉ちゃん出かけるんでしょ?」
 「ダメだよ」
 「会うのがお友達だから?」
 「そうね」
 「しょっちゅうお友達と会ってんだね」
 詩織は黙って髪をくるんでいたタオルを外し、髪の束を挟むようにしてゆっくり水気を取り始めた。
 「あたしといるより、お友達といる方が楽しいもんね」
 「マナと比べる話じゃ……」
 詩織がそう言いかけると、愛海は立ち上がって詩織の腕にすがりついてきた。
 「……お姉ちゃんあたしのこと嫌いなの……?」
 「好きとか嫌いとかそういう……」
 「お願いお願い!! 嫌いにならないで!? ね!? ならないって言って!?」
 突然、愛海は少女の顔で、今にも泣きそうな調子で言ってきた。
 「落ち着いてマナ」
 「落ち着いてるよ!」
 「そうは見えないの」
 「じゃあお姉ちゃんどこ行くか当てようか? あたし、落ち着いてるもん」
 「……え?」
 「赤坂」
 そう言った愛海の顔を、詩織は真顔で見返した。
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