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背後偏愛サロン
第5章 貢ぎ
5.貢ぎ


(1)

 愛海は、ホテルに入った。
 そしてしばらく、周りを見渡した。

 愛海は少しの間、考えをめぐらせる。
 結局、愛海はなるべくロビー全体が見渡せる場所に立って待つことにした。

 このホテルが詩織の目的地であることは分かっていたので、地下鉄の乗り換えで姿を見失ったりすることがあっても、何の困難もなく後をつけてくることはできた。
 今日こそ、どこで何をしているのか見届けたいという決心と好奇心でいっぱいだった。

 愛海から離れたロビーの壁際に、詩織の姿が見えた。
 詩織はマスクをしている。壁に向かってスマホを見ているようだ。
 誰かと待ち合わせしているのだろうか。
 愛海は詩織を見失わないよう注意を払った。

 しかし突然、観光客風の外国人女性三人組に取り囲まれ、英語で話しかけられた。
 悪いが構っている暇はない。が、日本語で『忙しいので』と繰り返し、手首を振って立ち去って欲しいと何度も意思表示しても、相手は質問をやめる気配はない。

 皇居に行きたいらしいが、ここからなら歩いてでも行ける。
 とはいえ説明が面倒だ。まだ、地下鉄に乗ってどこそこの駅で降りればいい、と説明する方が楽だ。
 それに愛海とて今いるホテルからの詳しい道順を知っているわけではない。
 視界にはまだ詩織の姿がある。

 愛海はロビーカウンターを指そうとしたが、どこも人が並んでいる。
 愛海は仕方なく、三人に向かって早口で英語で話し出した。
 それを聞いた女性のうち一人がスマホを取り出した。
 愛海は、画面に出てきたマップ内の皇居のど真ん中にマーカーを打って、スマホを突き返した。

 詩織の姿は、消えていた。
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