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背後偏愛サロン
第5章 貢ぎ

    ※  ※  ※

 三十分ほどが過ぎただろうか。
 愛海はロビーの同じ場所で立ち続けていた。
 見失った隙に詩織はホテルを出たかもしれない。
 しかし愛海の直感は、詩織はホテルの中にいると告げていた。
 そして待ち続けることにした。

 徐々にロビー内を行き来する人の数が増えてくる。
 突然、愛海はその場を離れ、早足で歩き出した。
 来た時に入ってきた同じ正面出入口から、詩織らしき人影が出て行くのが見えたからだ。
 愛海と詩織との距離は離れているが、どうせ帰宅の途につくだけだろうから、一時見失っても問題はない。

 愛海はホテルを出て詩織の後を追った。
 詩織の姿が十数メートルくらい先に見える。
 間違いなく、溜池山王の駅の方へと向かっている。
 が、いつもより詩織の歩く速度が速い。
 駆け寄って、表参道の時と同じように詩織の反応を見てみようか。
 おそらく、今日の詩織の『目的』はもう終わっている。

 愛海が走り出そうとしたその時、詩織は突然裏道に入った。
 その方向に地下鉄へと通じる階段は、ない。
 愛海は走り出した。
 詩織が曲がった裏道まで来ると、その先に彼女の後ろ姿が見えた。
 どこへ行くつもりだろうか?
 もしかして、愛海の尾行に気づいていて、それをまこうと考えているのだろうか?

 詩織は、振り向きもせずどんどん真っ直ぐ歩いていく。
 やがて、詩織はさらに別の道を曲がった。
 愛海は再び走った。
 詩織が曲がった場所まで来る。
 ある小さなビルに入る詩織の姿が見えた。
 そのビルまで駆け寄ると、『個展』『写真展』などと書かれた小さな看板が掲げられていた。
 愛海はビルの中へと入った。
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