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背後偏愛サロン
第5章 貢ぎ
 こぢんまりとしたその空間には、誰もいなかった。
 壁には額にはめられた写真が等間隔で展示されている。
 みな、人形の後ろ姿だ。

 愛海がひとつひとつの写真を見ている時、ある人形の姿に目が止まった。
 詩織が持っている服と同じものを着ている。
 ブラウンのコートとワインレッドのスカートだ。
 愛海はスマホを取り出し、あるサイトを開いた。そこには詩織の後ろ姿らしき写真が載っている。
 表示された詩織の写真と人形の写真とを見比べる。
 誰がどうみても、同じ服だ。

 人形の写真からは、どこどなく違和感のような、ちぐはぐな感じが漂ってくるが、同時にそれが愛海には『子供』を拒んで『大人』だけを迎え入れるような淫靡なものに思えた。
 愛海は好奇心を超えて高揚感を覚え、腹の底から何か熱い湧き水のようなものが出てきて全身へと駆け巡るのを感じた。

 愛海は出入口とは別の扉に目をやった。
 詩織がここに入るのは見た。だが出て行くのは見ていない。
 であれば、今この場に誰もいない以上、詩織があの扉の奥にいることは疑いない。
 愛海は『STAFF ONLY』と書かれたその扉を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。

 しかし――
 別にここで詩織に会う必要はないのだ。
 覗き見ができるなら覗いてみたい、とは思っていたが、詩織が『やっていること』はどうもそれが叶うようなものではないらしい。
 であれば、自身で体験すればいい――。
 いや――
 体験してみたい。

 ――もう子供じゃないよ。
 ――拒むなんて、させない。
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