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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
 詩織はスマホを取り出して画面を見た。
 『サロン』から来たメールには『2』と書いてある。
 詩織は『2』という数字が付けられた扉を開けて、奥に足を踏み入れた。

 四畳ほどの狭い空間は、個展が開かれていた最初の部屋と同様に欧風で、窓は全くない。灯りも壁のモールディングに取り付けられたものが一つあるだけだ。
 その灯りはすずらんの花を逆さにしたような形のライトで、天井に向けられた間接照明になっている。
 明るくはないが暗くもない。十分、物は見える。

 床は紅いビロードの絨毯が敷かれ、それらや木材から跳ね返ってくる灯りが部屋全体を琥珀色に包み、長い歴史を刻んだヨーロッパのレストランかパブにいるかのような雰囲気をかもしだしている。

 一番奥の壁際には、絨毯と同じく紅いビロードのカーテンが、壁から一メートルほど離して吊り下げられている。
 カーテンの長さは天井から詩織の胸元くらいまでで、ちょうど真ん中あたりに穴が開いている。
 前回と、同じだ。

 詩織は入口のそばにある、これも西欧アンティークな風合いの小さなチェストの上を見た。
 蝋で封をされた封筒が置いてある。
 詩織はそれを取り上げ、封蝋をはがして中の紙を取り出した。
 上質の便箋に、ペンの手書きの文字が整然と連なっている。

 カーテンの方を向いて後ろ向きにじっと立っていれば良いということ、万一身の危険を感じたら壁際の呼び鈴の紐を引くこと――など、内容は前の時と同じだった。
 それにしても、達筆だ。
 こんなに綺麗な字が書けたらいいのに――詩織はそんなことを考えた。
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