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ただそこに君がいた
第2章 いつからか
『…………』
この癖には続きがあって。
沈黙の後に…
ギリリ…
歯ぎしりをしたら、クロ。“嘘をつく”に舵をきったというサインだからだ。
『えっと…師範と稽古のことで口論になっちゃって。頭に血が登ったまま、飛び出して…』
『一夏。前から言ってるだろ、オレには嘘つくなって。』
『!!』
『お前の嘘なら見抜ける。今でもな。』
風呂の淵に頬杖ついて、ため息混じりに遮ると一夏は喋らなくなった。これもいつもの癖だ。観念してる時の、一夏の癖。
『…もう。何で?!何で春季はいっつもそうなのよ?!』
『う〜ん。お前こそ、何でそんなに下手なのよ?』
『ッもおぉぉ…!あんたって昔っからそう!変なとこだけ勘が良くて、空気は読まないんだから…!少しはあたしの繊細な気持ちを、汲んでみたらどうなのよ?』
『アハハ。でもさぁ、嘘が下手って、素直な証拠だろ?いい子に育って何よりなんだから…潔く諦めて、洗いざらい話すこったな。』
『っっはあぁぁ…』
豪快に息をついた一夏は、改めてオレに体重をかけてきた。…よし。今度こそ事実を聞けると確信したオレは頬杖をやめ、軽い背中を背負い直した。